vol.17:ライティング物語 2

 2年目にもなるとスタジオで撮影ということも多くなった。はたから見ていると貸しスタジオというのは、どんな仕組みになっているのか分からない。こんな時、「まじめにアシスタントしとけばよかった」と思う。まず車の入れ方からして分からない。どこに付ければいいんだ。こっちも素人とは見られたくないから必死で慣れているふりをする。

 いざスタジオに入ると中はただの真っ白な空間。白のホリゾントはじっと見ていると平衡感覚がなくなってしまう。本日の撮影は白バックでのモデル撮影。とりあえずバックにライトを当てて白く飛ばさなくてはならない。バックに光を当てるということだけは分かるが、どうやったらいいのか分からない。スタジオマンに「バックとばして」と言うと当然「どうしますか」と具体的な指示を求められる。「それが分かったら苦労は無いんじゃ」という素振りは微塵も見せず、「ここではいつもどうしてる?」と友好的に質問。「カサバンかチョクトレヨントウをボードデカコンデマス」こっちにはまるで呪文のように聞こえる。「チョウチンモレギリということもあります」。なんじゃそりゃ。

 そこは分かったふりで「じゃーカサバンでいこう」。それからも次から次へとメインライトはどうするだの、ストロボの出力はいくらだの、メインとバックの差はどうだの、立位置はどこだの、もうセッティングが終わる頃にはグッタリ。素直にスタジオマンに聞けばいいのにと今さらながらに思う。

 見よう見まねでスタジオも使えるようになってきた4年目。だんだんとタレントの撮影が多くなってきた。なんとか自分のオリジナルを出したくて4×5のカメラを据えて「自分でシャッターを切ってください」とカメラから長いレリーズを伸ばして被写体に渡した。この人まかせとも思えるシリーズは好評で1年半くらいの間に、30人くらいのタレント、ミュージシャン、芸人をスタジオで撮ることができた。この時、自分に決めた約束は「1回やったライティングはしない」ということ。毎回毎回、全て違ったライティングを作った。最初はスタジオ撮影が嬉しくて、天井に10灯、カメラ後ろに10灯と、とにかくライトをいっぱい使っていかにも「撮影してます」という気分にひたっていた。しかし段々と灯数は減っていき、最後のほうは1灯だけ、というのが多くなった。1,2年目にあったライティングコンプレックスは、ようやく解消された。分かってしまえば何だということになる。

 僕のアシスタントが1年目、やっぱり見よう見まねでライティングした写真を持ってくる。僕と同じ機材を使って同じようにライトを当ててもなんか違う「ライトを当てました」という写真にしかならない。それが3年続けると、同じライティングでも自然な奥行きのある写真を撮ってくるようになる。不思議といえば不思議。やっていることは同じでも出来上がったものはまるで違う。この違いがなんなのか分かるまで僕は10年かかった。

 ここ数年、ストロボはほとんど使っていない。自然光かタングステンのRIFAという灯体を使っている。目で直接確認できる利点のためだ。それが高じてHMIという個人では持っている人の少ないライトまで買ってしまった。高かった。