vol.19:海外ロケで…

海外ロケは行く前はウキウキ。着いてからはヘトヘト。

ほとんどの撮影が都内のため、海外撮影の仕事が来ると舞い上がってしまいます。用もないのに友人に電話して「俺、明日からヨーロッパだから。イヤーたいへんだよ。」

電話されてもいい迷惑なことは分かってますって。

あるとき、急な海外ロケが決まり、無事スケジュールの調整もつき一安心していると、急にいやーな感じが。パスポートを調べるとしっかり期限が切れています。出発までもう1週間もないのです。

あわてて旅券課に行って泣きつきました。そしたら出張命令書が出れば優先してくれというじゃありませんか。急いでFAXで出版社から書類を取り寄せ、3日で交付してもらうことが出来ました。行く前からヒヤヒヤものです。

機材の選択は頭が痛いもの。要人のポートレート撮影もあるため変な格好も出来ません。10日分の着替えやらなんやらでスーツケース1つがつぶれます。カメラはできるだけ最小限に。35ミリのキャノンイオスをメインに使うことにします。ボディからモータードライブをはずしたものを2台、レンズは15ミリ魚眼、20ミリ、TS90ミリに28〜135ISズーム。これは手ブレ補正装置が付いていてとっても便利。今回は持って行きませんが、50ミリf1.4や135ミリf2、1.4倍のテレコンバーターも加えることがあります。予備のリコーGR1と個人用のライカも。フィルムが曲者で100本も持っていくとそれだけでバック1個分に。このほかに三脚があって、ストロボのセットがあって。気がつくと、とても一人では持てない荷物の量。どれを削るか、出したり入れたり、一晩中やるはめになるのです。


ロンドンやパリなら現地で現像もできますが、ヨーロッパもちょっと小さなところに行くとポジの現像に1週間はかかります。毎日増えていく撮影済みのフィルムの山を見ているとだんだん憂鬱になってきます。

「もし、もし、これが写っていなかったら」。こんなときほど編集者やライターの職業をうらやましく思うときはありません。

ストロボは電圧の違いで、日本で使っているAC電源の大型のものは使えません。変圧器を持っていくのも大荷物になるし、キャノン専用のちょっと大きめのグリップタイプストロボを持っていきます。専用ですので当然フルオートです。

取材初日、早速ポートレートの撮影でストロボをセットしました。スタンドを立て、ソフトライトボックスを取り付けます。なごやかに撮影は終了。露出はオートのはずですが念のため露出計で測ってみました。

すると… 絞りにして3段も違います。カメラにセットした絞りがf11ならメーターはf4を示しています。なんどやっても同じ数字が出ます。動揺が伝わったか、まわりが「なにをやっているんだ」という表情に。「マズイどっちかがおかしい」メーターはミノルタ製で、ずっと使っている信用できるもの。対してキャノンの専用ストロボは、めったに使ったことはありません。メーター通りなら上がりは真っ黒です。

「もう1カット別の場所でとりましょう」
努めて明るくふるまい有無を言わさずもう1本撮影しました。当然メーターの指示通りに。

それからはなにを信じていいのやら。ストロボがいかれているのか、カメラが悪いのか、もしやメーターなのか…。こうなると不安でいっぱいです。ヨーロッパで失敗なんてしゃれになりません。次の撮影からはポートレートは自然光で、予備で持っていったリコーのGR1でも必ずおさえで撮ることに。すると、キャノンで撮っていたときはムスッとしていたのに、GR1で撮ったら「僕のポートレートをこんな小さなカメラで撮ったやつはいないよ」と、逆に大喜びされ、いい表情が撮れてしまうことも。

結局壊れていたのはメーターでした。外の露出を測ってみたら自分の体内露出計とやっぱり3段違っていました。晴れた日の露出は全世界ほぼ一緒です。東京で鍛えた体内露出計の経験が役に立ちました。壊れていたのがカメラでなくて一安心です。後日、ミノルタに修理に出したところ、「受光部がショックでずれていた」と言う事でした。


最終日ロンドンに戻り現像所探し。プロラボと思しきところを見つけ1本テスト。結果はOK。残り全部を現像し、すぐさま上がりを編集者に。

その時の開放感ったら…
その後の自由時間、あんなに気持ちのいいショッピングの経験はありません。3万円のお皿を買ってしまったくらいです。