vol.20:Mole

 出版社でありギャラリーであり書店であり写真図書館まであった「Mole」(モール)が6月いっぱいで四谷から姿を消しました。
 僕の写真集の出版元でもあっただけにとても残念です。写真を志すものの光がまたひとつ消えました。

 6月29日、これが最後とモールに足を運びました。店内の壁には「FROG」時代からの写真展の案内状が、壁を埋め尽くすように貼られていました。
 大西みつぐ、島尾伸三、鈴木清、高梨豊、田中長徳、田村彰英、築地仁と言った現在の写真界を語る上で重要な人達から、ロバートフランクや牛腸茂雄の名前も見て取れます。

 モールの存在は前々から知っていたのですが、初めて行ったときには少々とまどいました。木造二階建ての一軒屋、一階の書店の先の階段をギシギシ上がると小さなギャラリーがあります。初めての人間にはよそ様の家に上がるようで躊躇してしまいます。お世辞にも立派とはいいがたいところでした。
 やっていたのは若手らしく、モノクロで撮った町のスナップでした。荒々しく焼かれたプリントは無造作に壁に直接貼り付けられていて、若さは感じられるものの、それ以上でもそれ以下でもない。そんな感じでした。

 驚いたのは、なにげなくめくった芳名帳に、キラボシのごとき憧れの写真家や、評論家の名前が連ねてあったことです。
 この若い写真家のためにやってきたというより、モールの写真展は欠かさず見ているという雰囲気です。写真好きが集まる場所というのがそれだけで伝わってきました。

 一階の書店には、大型書店にも置いてなさそうな写真集が所狭しと積んであります。1冊1冊手に取って見ていくと、あっというまに時間が過ぎて行きました。それからは時間があるとモールに足を向けるようになりました。

 自分の写真集を作るというときに、モールから出版するということは自然な流れでした。小ロットの写真集はなかなか大手の出版社は相手にしてくれません。写真集を数多く出版していた光琳社やリブロポート、京都書院など次々となくなってしまい、写真集を出版するのは年々難しくなっています。小さな出版社では「お金をある程度だせば出してあげますよ」と算盤をはじかれます。かといって最初の写真集を商売だけでとらえてほしくないという思いも当然どこかにあります。
 「最初の写真集は写真の好きな人とやりたい」この思いで結局モールの津田さんにお願いすることになりました。津田さんの写真集に対するインタビューを読んだのが決め手でした。
 津田さんと作れたことは幸せだったと思います。残念ながら発売から1年たたずにモールは終わってしまいましたが、残り少しの在庫を個人で丁寧に売っていきたいと思っています。

 最後に会った津田さんは、やっぱりちょっと寂しそうでした。図書館はすでに北海道の東山に移してあり、書店の棚にはもうほとんど写真集は残っていません。お客さんが一人だけセール対象の本を熱心に見ていました。

 津田さんは函館でモールを続けていくそうです。
 「とてもロケーションのいい場所が見つかったんだよ」
 そう言って最後はにっこりと笑ってくれました。