vol.21:わたしはいそがしい

 撮影の合間、編集者と世間話をしていると、「最近お忙しいんでしょうねー」と振られることがよくあります。何気ない一言なのですが。

しかし、瞬間こちらの頭の中は「確かに今は忙しいような気がする。でも倒れるほどじゃない。この特集の撮影が終わったら、なんか撮影入ってたか? いや連載ものがちょっとあるだけだ。もしかしてこれは次の仕事の打診をしているのか? いや話しの流れからして違う。ウ〜なんて答えたらいいんだ。」

「そうですねー けっこういそがしいかな」

「そうですよねー 次もってわけにもいかないですよねー」


「アッいやそんな」


フリーのカメラマンなんて1ヶ月先のことなどまったく分からないもの。「俺はずっとスケジュールが詰まってる」というカメラマンもいるかもしれません。

でもそれは極めてまれです。どこかで仕事の予定はポッカリと穴が開いたようになります。

 僕の場合は1年を通すと、4、5ヶ月ぐらいがすごく忙しくて、半年がまあまあで、残りの1ヶ月は話すのもおそろしいくらい。アシスタントにまで「次のスケジュールを教えてください」と詰め寄られる始末。

それはこっちが聞きたいよ…。

いつもは、その1ヶ月のどこかで旅に出てしまうのですが、タイミングが難しい。「もしかして仕事が入るかもしれない、そういえば月末によろしくと言っていたような気がする」

当然ながらフリーは仕事の分しか収入になりません。

「エイヤ!」と踏ん切りを着けない限りどこへも行けないのです。会社員だった頃、「フリーになったら好きなときに外国に行けるんだろうなー」と思っていました。


間違いでした。会社員のほうがよっぽど自由に行けます。だいたいスケジュールを組んで行ったことなど1度もありません。だからいつも一人。空港で盛り上がっている4人組のグループなんかを見かけると、とってもうらやましくなります。


「明日から10日間空いてる。行こう。」そう決めたら即旅行代理店に行き、空いているエアーを探します。午後2時までだったら格安のチケットが手に入ります。もっとも係員には「アジアだったらどこでもいいから」といって探してもらうんですけど。


写真家の斎藤亮一さん(「6月の写真展の○」に出ています)は、毎年1ヶ月間海外へ撮影旅行に出かけると聞きました。それを10年以上続けています。斎藤さんから話を聞いたときにはひっくり返りそうになりました。ほとんどのカメラマンは「行きたいんだけど、ナカナカいそがしくてネ」と口ごもります。1ヶ月間、日本を留守にする怖さはフリーにしか分からないでしょう。


今年も3月に行こうと思い、旅行代理店に行きました。ところが昨今のアジアブームでどこもエアーが空いていません。行きは取れても帰りはダメだとか、その反対だとか、期間が4日間だけとか。インドネシアもマレーシアもシンガポールもフィリピンもダメ。タイなんて3ヶ月間1席も空いてないと言う始末でした。

「そうだ沖縄にしよう」いさんで調べるとエアーは空いてます。でも…天気予報は1週間ずっと雨でした。


考えた末、行き先を伊豆大島に決めました。天気予報はずっと晴れ。飛行機だとあっという間に着いてつまらないので、わざわざ夜行フェリーで行くことに。大島は85年の噴火の時に取材で行った思いで深いところです。


ところが朝方、フェリーがだんだん島に近づくと、体がどんどん異状を訴えてきます。鼻水は出るは、目がかゆくて涙が止まらないわ、くしゃみは連発だわ。そうです花粉症です。東京では、3月も終わりで症状はもう治まっていました。まさかこんなところで…

朝6時に港に着いたら、もう動けないほど。こんなひどい症状は、これまで経験したことなし。薬屋が開くまで耐えられそうにありません。

そのまま朝1便の飛行機で東京へ。ああ!


羽田空港に着いたら「あさってタレントの〜の撮影なんですが」という電話が。

もちろんありがたくお受けしました。