vol.25:この頃さわったカメラ ベイビーローライ

今のアシスタントWが雑誌記事(カメラスタイルNo.8)にそそのかされて、アメリカからインターネットでベイビーローライを手に入れた。見た目はとても綺麗で、ストラップとあのピスタチオの殻と称されるグレーのケースも付いてきた。プラスチックだとばかり思っていたのに手に持ってみたら革製だった。こういうのはちょっと嬉しい。小ぶりの外観はとてもそそられる。値段は4万円弱。まあまあ。

ベイビーローライとは、6×6cmの二眼レフタイプのローライの形をそのまま、4×4cmのベスト版フィルムを使うことで二回り小さく作ったカメラ。グレーの外装がおしゃれ。

一時期ゴロゴロとショーケースにあったベイビーローライだが、このところトント見かけなくなった。ローライブームのせいか? 雑誌でもよく取り上げられている。懸念だったベスト版のフィルムも、モノクロながら(クロアチア製というのがスゴイ)入手しやすくなってきたし、ブローニーフィルムをカットする機械まで発売されている。買うやつは誰だと思っていたら、しっかり知り合いのK氏が手に入れていた。ベイビーローライを本気で作品撮りに使うのだと張り切っている。フィルム詰め替えの話しでは、なんでもT−maxは巻きが強くて向かないということだった。フィルムによって向き不向きがあるという。

しかし、Wのベイビーローライは、前板がゆがんでおり、ピントを合わせるレンズと撮影レンズの平行がずれていた。見た目にもはっきり分かるほどのズレ。当然ピントが合うわけもなく、数本フィルムを通しただけで返品と相成った。修理できないものか、ローライの代理店の駒村商会などに持ち込んだのだが、最低でも3万円以上かかるということであきらめたようだ。ベイビーローライは、このピント面のトラブルが多いらしい。

見ているうちにベイビーローライがだんだん欲しくなってきた。前述のK氏は松坂屋カメラでビカビカのやつを4万円で手に入れていた。当然ケース、ストラップ付。こんな綺麗なの見たことないというくらいの逸品。専用フードはネットオークションで1万2千円で手に入れたと言っていた。

欲しい、どうしても欲しい。物欲の塊になって銀座に出向いた。カツミ堂にあるという情報があったからだ。しかしそこはやはりカツミ堂。まあまあの程度で8万円。高すぎる。予算は勝手に4万8千円と決めていた。

ならばレモン。めずらしく2台のベイビーローライが委託で出ていた。一台は4万円、もう一台は4万5千円。4万円のやつは付属品なし。程度Bといったところ。もうひとつのほうは程度B+で、なんとケース、ストラップ、レンズフード付。おまけに5本のフィルムも。すぐさま見せてもらう。レモンの場合、委託品は返品できない。ピント面があっているか入念にチェック。無限大を確かめ、レンズボードの平行を見る。大丈夫なようだ。ピントフードを立ち上げないとシャッターが切れないということを知らず慌てる。低速のネバリもなし。空シャッターはあまり切ってはいけないらしい。各部をなめまわすように点検する。フィルムをお店で詰めてもらい購入決定。


お金を支払うと早速、付属のフィルムで銀座をテスト撮影。コロコロと手の中に納まるローライはいとおしい。暗くて見づらいファインダーでさえこれでいいと思ってしまう。シャッターは軽くて音もほとんどない。こんなかわいいカメラで撮ったら相手も喜んでくれるに違いない。なんだか理想的なカメラに思えてくる。「ああ、これにネガカラーを詰めてどこかに行きたい」もう頭の中はよその国である。

1本目を撮り終え2本目をつめる。大きいローライと一緒で、1枚目を自動検出するガイドローラーにフィルムをくぐらせ慎重に入れる。よしこれでOK、とクランクを巻き上げるとクルクルといつまでも回る。例のパチンという音がないまま最後まで巻き上がってしまった。カメラを開けてみるとやはりすべて巻き取られている。3本目。これ以上はない慎重さでフィルムを装てんする。無常にもクランクは抵抗ないまま回り続けた。

冷や汗をかきながらレモン社に駆け込んだ。事情を説明して店員にフィルムを詰めてもらう。何度かやってみるがやっぱりダメ。5回やって1回の割合でしかうまくいかない。委託品であったが、目に見えない部分での不具合ということと、完動品という触れ込みだったので返品を受け付けてもらえた。ただ残念なのは、せっかく撮った銀座の写真のロールも返品しなくてはならなかったのだ。
もう一台のベイビーローライは、と考えたが、すっかり気持ちが萎えてしまい、すごすごと銀座をあとにした。

どうもベイビーの程度がいいのを探すのは難しいようだ。でも手に入れられなかったものほど気にかかる。

以来カメラ屋を覗いてはベイビーを探している日々だ。