vol.27:フォーマット

今僕が使っているカメラのフォーマットは、35ミリ(サンゴー)、6×6cm(ロクロク)、6×7cm(ロクナナ)、4×5in.(シノゴ)、8×10in.(エイトバイテン)と、35ミリを半分にしたハーフサイズ、ポラロイド185にポラロイド668。


僕の撮影のほとんどがポートレート。使うことが多いのは6×6cmのハッセルブラッドで、全体の80%くらいになるでしょうか。30年前ならいざしらず、今でも6×6cmをメインに使っているのは珍しいかもしれません。雑誌やポスターなどの印刷物は縦長か横長のため、正方形はロスが出るからと皆嫌っているせいです。

現在、中版カメラの主流は6×7cmから6×4.5cm(ロクヨンゴ)へと変わってきています。6×4.5cmは以前マミヤ、ペンタックスと使っていました。しかし便利なのにどうにも使い心地が面白くなくて使うのを止めてしまいました。マミヤはグリップを握りこむとベコベコするし、ペンタックスの旧型645のファインダーはピントがしっかり見えませんでした。


何故あえて6×6cmを使っているか?

ポートレートを撮る場合、人物のバックが重要性を帯びてくることが多いのです。縦位置では後ろの背景が入りきらず、横位置では過剰になりすぎます。正方形の場合、画面中央に人物を配置すると、バックが程よく入り込み主役を浮き立たせることが出来ます。それが白バックでも、黒バックであっても画面へのバックが占める割合がちょうどいいのです。

ハッセルの頭を下げて撮るスタイルもポートレートには合っているかもしれません。ただし、正方形は決まりすぎるという欠点もあります。その匙加減は微妙なところ。


ハッセルを使い始めたきっかけは、ローライの2眼レフ2台でずっと撮影していたのですが、ローライはポラが使えません。そこでハッセル501Cの中古セットを18万円で購入しローライのポラとして使ってみました。

ファインダーも見やすくポラだけではもったいないのでフィルムを通したところ、ローライより断然プリントがしやすいではありませんか。これまで10枚かかっているとしたら4〜5枚でOKが出る感じです。あれほどローライに固執していたのにあっという間に「ハッセル最高」となりました。

以来、レンズが50、80、100、150。ボディが501Cと553ELX、それとSWCビオゴン38mm。マガジンが3個にポラパックが2個(カラーとモノクロ用)。アングルファインダーに旧型のレンズシェードと増殖していき、ローライのポラ機からメインの機材へと昇格していきました。


4×5in.(シノゴ)や8×10in.(エイトバイテン)の大判カメラも大好きです。上下左右逆像に写る大きなスクリーンを見ているのは、もうそれだけで楽しい。一時4×5in.でなんでも撮っていたことがあります。もちろん人物もです。


大判カメラは、シャッターを開け、黒布をかぶり、構図を決め、ルーペを使い、ピントを合わせ、シャッターを閉じたら速度と絞りをセットし、フィルムホルダーをカメラに入れます。そこでシャッターをチャージして、レリーズを押し込む。以下その繰り返し。その間モデルがちょっとでも動いたら最初からやり直しなのです。


そんな面倒なことをしてまでも大判カメラにこだわったのはシャッターのダイレクト感のせい。レンズとフィルムを蛇腹でつないだだけのシンプルな構造は、「ここ!」と思った時に即座にシャッターが反応してくれます。


以前フジの6×8GXという戦車のようなカメラを使っていたことがあります。中判ながらモータードライブを装備し、コンピューター制御のシステムは、「トラブルを未然に防げる」というのが売り文句でした。初めは「これが最高」と思い込んでいたのですが、慣れてくるとシャッターのタイムラグがどうしても許せません。大きなミラーが跳ね上がってシャッターが切れるのだからしょうがないのですが、ほんのちょっとのタイミングのズレが生理的にダメ。段々と使わなくなり最後には処分してしまいました。


カメラの大きさは相手をその気にさせる効果もあります。小さなカメラで撮られるのと、昔写真館で見たような大きなカメラで撮られるのとでは、撮られるほうの気合も違ってくるというもの。お互いレンズ越しに対峙しあい「勝負、勝負」ということになり、わずかな時間で濃密な関係を持つことが可能になります。

だから35ミリなら2〜3本、枚数にして100枚くらい撮るところを、4×5in.で10枚、8×10in.なら2〜3枚もあれば済んでしまいます。ただし2〜3枚でこちらも相手ももヘトヘトになってしまうのですが。

ちなみに35ミリ1本分のフィルム面積は、ブローニーフィルムなら1本分、4×5in.なら4枚分、8×10in.で1枚分になります。これは撮影面積と撮影労力が比例するということを意味します。1日で35ミリなら10本撮れるとしたら、8×10in.で撮ろうと思うと10枚が精一杯となるのです。


フォーマットを決定するときには、雑誌に使うとかポスターに使うとか、使用サイズには影響されません。もっと生理的なものによって決められる事が多いように思われます。


しかし僕の場合、どうも他の写真家からの影響も多分に強いようです。ジョック・スタージスの写真展を見て8×10 in.のモノクロプリントの美しさに参ってしまい、8×10をまた使いたくなってしまいました。

ついこの間まで森山大道に影響され、「これからはハーフ版だ」と思っていたばかりなのに。



追記

美輪明宏の撮影で久々に手が震えた。どんな著名人だろうが、緊張することなどこれまでほとんどなかったのに。テレビで見る美輪明宏ではない本物は、掛け値なしに美しく気高かった。自宅の全景をSWCで、アップを150mmで、ルーズなバストアップを80mmで撮った。撮影後ドロドロになって家を辞した。全てを吸い取られたような感覚。存在感のあまりの強さに「彼女」の舞台をどうしても見たくなった。