vol.31:プラチナカード?

アメリカンエキスプレスカードのプラチナカードというのをご存知だろうか。最高のステイタスを誇り、最上のサービスを受けることが出来る。例えば、入手困難なチケットの予約や宿の手配はいうにおよばず、旅行先の忘れ物まで探してくれる。そのほか、まさに個人秘書の役割をはたしてくれる素晴らしいカードだ。


そのプラチナカードのご案内が届いた。現在、僕が使っているアメックスはグリーンである。ゴールドを飛び越して2階級特進だ。持ち家もないフリーのカメラマンに、いったいどういう訳だ。


アメックスを使っている理由は、利用金額に応じて付くポイントが、航空会社のマイレージに交換できるせいだ。航空会社のカードに切り替えようと思っているのだが、長年使っているためズルズルとそのままにしてある。毎年200万円以上は使っているので、2年に一度は貯めたポイントをマイルに交換し、どこかに行ける計算になる。


友人のカメラマンに、プラチナカードを持っているのが一人だけいる。彼は売れない頃、オートバイのローンを数ヶ月焦げ付かせたせいで、クレジットカードの審査をはねられ続けた経験を持つ。やっと持てたアメックスのカードを大事に使い、ゴールド、プラチナとランクアップしていった。持てなかったカードに対する復讐でもある。


ところがプラチナカード入手直後、喜んで使おうとしたのだが、店の人が誰もプラチナカードを知らず、大いに怪しまれたという。店員は、何度もカードをひっくり返し、本人を上から下までジロリと一瞥し、気まずい空気が流れたらしい。


プラチナカードを友人から見せてもらったが、銀色に縁取られたデザインは、プラチナというより、どう見てもシルバー。ゴールドより格下のカードのようだった。


フリーのカメラマンにクレジットカードは必需品である。使う金額がいきおい大きくなるため、いちいち現金を下ろしていられないし、海外のまともなホテルはカード支払いでしか泊めてくれない。ためしにキャッシュで泊まるといってみたらどうなるか。かなり驚いた顔をされ、東洋人は信用できないというあからさまな態度をとられ、倍の宿泊料金をデポジット(預かり金)に取られることになる。


もうひとつ重要なのが現像所の口座だ。サインひとつで現像料の支払いとフィルムが購入でき、1月後まとめて支払うことができる。しかも実績ができれば、事務所まで現像の集配に来てくれる。


しかし誰でも口座を開けるわけではない。最初は、毎月10万円の取引を6ヶ月間続けなければならない。これはフリーなりたての新人にとっては不可能に近い数字なのだ。毎月、毎月100本以上のフィルムを現像に出すほどコンスタントに仕事が来るわけがない。


僕もフリーカメラマン最初の1年、口座が無いばかりに、現像所にフィルムが現像されて上がっているのに、財布にお金がなくて引き取りにいけない、というのがままあった。20本以上の現像料ともなると、2万円は越してしまう。その2万円が払えないのだ。クレジットカードは現像所では使えない。しかたなくキャッシングということになる。


毎回これではたまったものではない。撮影と支払いに1月以上のタイムラグがあるから、蓄えがないと困る。けれど口座支払いにすればそれは解決できる。先輩カメラマンに頼み込んで保証人になってもらい、やっとのことで現像所の口座を持つことが出来た。




さて、プラチナカードだが、年会費も最高グレードだった。グリーンが1万2千円、ゴールドが2万2千円。


そしてプラチナは…85,000円だ。


ただし、アメリカン・エキスプレス・バンク香港の口座に5,000万円以上の資金を預ければ、年会費は無料になる。


といわれても。


むろんこのカードを使ったからといって、店員の態度が優しくなったり、物の値段が安くなったり、まして社会的信用度が上がったりすることはない。


たぶん。