vol.49:ブックオフと光琳社

アシスタントWが写真集を買い漁っている。とはいえ、アシスタントの給料で、1冊3〜4千円するような本がホイホイと買えるわけがない。


ところが今は、「ブックオフ」が至る所に出店していて、そこが写真集購入の超穴場となっている。特に2年程前に倒産した「光琳社」の写真集が大量に売られている。なんでも倒産した光琳社の倉庫からコンテナ買いしたらしく、どこのブックオフに行っても光琳社本は在庫している。


ちなみに、青山ブックセンターでは光琳社の写真集を今でも新品で買うことができるが、仕入先はブックオフだと聞いた。


ブックオフの特異な点は、同じ商品でも店ごとに値段が違うことにある。仕入れ値は帯付きのきれいな物で定価の10%。売り値は定価の半額からスタートし、売れなければどんどん値が下がり最終的には100円で投げ売られる。


そもそも写真集と言うものは欲しい人には宝物でもほとんどの人には無用の物だ。写真集を購入する層が多く住むと思われる渋谷区、港区、新宿区などでは写真集の回転が早く、定価の半値でほとんどがさばけてしまうが、それに対し写真集にあまり興味を示さない郊外のファミリー地区では売れ残り、貴重な写真集でも100円、200円で手に入る事になる。つまり狙い目は郊外にある。


光琳社倒産直後には各ブックオフ店頭に写真集が山積みされフェアをやっていた。まったくの新品写真集が半値以下。高橋恭二のオリジナルプリントが編まれた希少な写真集も驚く程の安値で売られていたらしい。


かくしてアシスタントWは、郊外のブックオフから顔を上気させ、重い紙包みを下げて帰る事になる。先日も某有名写真家の本が200円だったと喜んでいた。気持ちはよくわかるが、写真集を作っている身からすれば複雑な心境だ。


光琳社は元々関西では大きめの印刷会社で、1992年ごろから写真集を製作販売するようになった。光琳社が初めて出したのが伊島薫の写真集『COLOR PHOTOGRAPHS』と『BLACK&WHITE PHOTOGRAPHS』の2冊組み。僕も赤と黒の装丁の美しい2冊の本が気に入り購入した。


その後驚くような速さと量で写真集を出し続け、あっというま間に写真集と言えば「光琳社」となっていった。『JAP』や『COMPOSIT』 といったサブカルチャー誌も手掛け、写真家の多くが注目していた。

それが前触れなくいきなりの倒産。最後に出たのは鈴木理策の写真集『パイルズ・オブ・タイム』。わずか1ヶ月の販売だった。しかしそれで見事、木村伊平衛賞を受賞。販売的に言えば大変だったろうが、その後の彼の活躍を見ると最後に出版できてラッキーだったと思える。


なにせ製版が済み色稿まで出ているのに出版できなくなったものもあるらしいのだ。製版フィルムは債権者の物だろうからそのまま他社で出すわけにもいかない。


光琳社倒産後、なだれをうつように、「京都書院」「リブロポート」「トレヴィル」「モール」と写真集を手掛けていた出版社がなくなり、新潮社が「フォトミュゼ」シリーズから撤退。小学館も写真集ビジネスから距離を置くことになり、写真集はどんどん出しづらくなっている。今頑張っているのは、「青幻社」、「ワイズ出版」、「リトルモア」、「アスペクト」、「河出書房新社」と一般の人にはまったくなじみのない出版社が多い。


そのせいもあるのか昨年は話題になる写真集がひとつも出ていない気がする。佐内正史、ホンマタカシ、HIROMIXは出し続けているがいまひとつという感じ。ホンマタカシは東京、HIROMIXはパリ、佐内は自分の車、スカイラインGTを撮った本を出している。タイトルはズバリ『俺の車』
(http://www.nttpub.co.jp/spot/infospot/infospot_sanai_car.html)

これって売れてるのか?『わからない』よりわからない一冊だ。


例年年末ともなれば賞狙いでいろいろ出てくるものだけれど、いまひとつ盛り上がっていない。川内倫子がリトルモアから3部作を同時出版しているくらい。その中では『うたたね』
(http://www.media-shop.co.jp/shop/photo2.html)

が一番よかった。ネガカラーで日常を撮っているのだが、浅い色使いが心地よい。


しかし前回の木村伊兵衛賞が女性3人への大盤振る舞いだったから川内倫子はないだろう。本命は笠井爾示の『波珠』(青幻社刊)
(http://www.seigensha.com/link/newb/)

と見た。この写真集はモノクロ写真の美しさを再認識できる。お薦め。


大きな書店でも写真集のコーナーはますます狭くなっている。写真集は初版どんなに多くても3000部。増刷は99%ない。半年も経つと店頭から消え、欲しいと思ったときには絶版となっていて本屋では買うことができないことが多い。だから気に入ったら即買ってほしい。せいぜいCDと同じ3000円くらいなのだから。