vol.55:ギャラリー

4月26日(金)から5月1日(水)にかけて神楽坂「アユミギャラリー」
http://www.ayumi-g.com/
で写真展の予定のため、このところその準備に忙しい。今回の個展で4回目、グループ展企画展を含めると10回以上になるからあまりあせってはいない。それが逆に後々首を絞めることにならなければいいんだけど。


「アユミギャラリー」は神楽坂を登りきったところにある小さな古い洋館。洋館といっても豪勢なつくりではなく、町に溶け込んだかわいらしい建物。冬の今は、石油ストーブにかけられたやかんがシュンシュンと音を立て、出窓のガラスから柔らかな日差しが差し込んでくる。いったん入ると出るのがもったいなくなる気分にさせてくれるギャラリーだ。


昨年の4月末、知り合いの作家が「アユミギャラリー」で個展を開いたときに見に行ったのだが、会場のあまりの居心地のよさにここで写真展をやることを即座に決めてしまった。具体的になにをやるかは未定だったが、とりあえず場所のキープが先決。こんなに気持ちのいいギャラリーを他には知らない。




良く知られているギャラリーにはメーカー系と呼ばれる、ニコンサロン、キャノンサロン、ペンタックスフォーラム、ミノルタフォトスペース、オリンパスギャラリー、コダックフォトサロン、フジフォトサロン、コニカプラザなどがある。それぞれに特色があってドキュメンタリー志向が強いとか、風景物が多いとかがある。


例えばコダックフォトサロンは、ふだん広告系の仕事をしているカメラマンが自分の作品発表の場として開くことが多い。フィルムメーカーのギャラリーのためカラー写真に重きを置いている。また若手の登用に積極的で、新人作家の登竜門的意味合いも含んでいる。募集は年2回、3月と9月にある。


ニコンサロンはモノクロの作品が多くシリアスな題材が多い。東京では銀座と新宿にあって新宿のほうは若い作家に門戸を広げている。募集は毎月有り、審査に通ると6ヶ月後の開催になる。


どんなに作品がよくても、それぞれのギャラリーの志向にあわないと開催権は得られない。しかし一旦審査に通れば会場費は無料で、プレスリリースといった宣伝活動もしてくれる。立地条件もよく集客力もあり1日300人、1週間で2000人以上の人が見に来てくれることもある。始めての個展でも会場自体にノウハウがあるから心配が少ない。ただその分制約も多いのも事実。貸しギャラリーは自由なことが出来るが、集客は自分でやらなければならないから初めてやるにはつらいものがある。


十年前、色々なギャラリーを見て回るうちに、「最初の個展はコダックで」という気持ちが段々強くなっていった。会場の広さ、照明、雰囲気、どれもがいい感じだったが、それよりなにより会場横にソファースペースがゆったりと設けられ、作者と来場者がゆっくり歓談できる場所になっていたのがもっとも大きなポイントだった。


写真展に行くと、作者が所在無げにポツンとたたずんでいることが多い。たまたま会場の観客が僕一人のときなど監視されているようで甚だ居心地が悪い。あんまり興味がない題材だったときなどさっさと帰りたいのだが、作者の視線が痛く会場をもう一周する羽目になる。「なにかご感想は」などと聞かれた日には思ってもいないことを口走ってあわてて逃げ帰ることになる。頼むから作者は隠れていてくれと思ったりするのだ。


作者が知り合いの場合は反対にいないとがっかりする。写真から受けた印象を消えないうちに伝えたい気持ちに駆られる。そのときも立ち話ではなくゆっくりと写真のことを話したい。その場所がきっちりとあるのはコダックフォトサロンだけ。他のギャラリーは、作者の居場所に関してまったくと言っていいほど気を使っていないのだ。


次に開いた銀座ニコンサロンは身の隠しようがまったくなく、会期中控え室とは名ばかりの倉庫に身を潜めることになってしまった。ドアをちょっとだけ開け、会場に知り合いが来ていないか見ていた覚えがある。




昨年は渋谷の「ウィリアムモリス」というお店で写真展を開いた。ここのお店は壁面がギャラリーとなっていて、おいしいお茶を飲みながら見ることが出来る。一人で来た人はボーっと眺め、2人で来た人は会話が途切れたときになにげなく視線を写真に走らせている。普通のギャラリーとは違って「何かを感じねばならぬ」といった思い込みは必要ない。好きなものがあったらなにも考えずにずっと見ていることが出来る。肩の力が抜けた「ホッ」と出来る写真展になった。


撮ったものは何らかの形で世の中に出したくなる。出来ればミュージシャンがライブをやるように写真展が開けたらいい。そう思い初めて額やマットボードを買い揃えている。その数は30近くになり、もういつでもどこでも写真展を開くことが出来るようになった。




今年の「アユミギャラリー」での個展はこのサイトのギャラリーにある「NY」「PARIS」「午後の最後の日射」のオリジナルプリントを40点ほど展示する予定。いつもこのサイトを見てくれている人にWEBとは違った美しい銀塩の写真を見てもらえればいいなと思っている。詳しいことは会期が近づいたらこのサイトで告知します。




友人の加藤朋子の写真展が、3月2日(金)より11日(月)まで新宿コニカプラザ西ギャラリー
http://www.konica.co.jp/info/plaza.html
で開かれます(新宿東口高野ビル4F10:30〜19:00最終日11日は15:00まで会期中無休)。同じ日芸卒ですが彼女は放送学科でした。卒業後写真に目覚め、夜間の写真専門学校に通いつめ、とうとう写真展を開く運びとなりました。また同時に写真集も出版します。タイトルは「common」。共有地と言う意味で、公園を舞台としたモノクロ写真です。プリントはラボテイクの加藤さんが、構成を僕が手伝っています。期間中、新宿にお越しの際は是非お立ち寄りください。会期中、作家は意外と暇をもてあましているものなので一声かけてあげてください。きっと喜ぶと思います。