vol.64:台湾と香港

コラムvol60:上海の続きです。




上海から戻り、フィルムと着替えを詰め替えるとすぐに香港と台湾へ。香港は返還前1998年に一度、台湾へは初めてだった。


上海料理はまったくといっていいほど口に合わなかったけれど、香港、台湾はおいしかった。台湾>香港>上海、屋台>食堂>高級料理店 の順。要するに台湾の屋台が一番おいしくて、上海の高級料理店はもう行かなくていい、と言うこと。


香港、台湾には牛丼の「吉野家」が進出していて、「朝から中華はちょっと」という体調の時は重宝した。香港の「吉野家」は日本と違い「鳥の照り焼き丼」などメニューが豊富で、キムチがお新香代わりに付いてくる。台湾のメニューは牛丼のみだがキムチと一緒になぜか「茶碗蒸し」が付いてきた。値段は双方とも500円前後。香港は11:00までは半額だった。


味はといえば、ちゃんと「牛丼」。香港は一般的に長粒種(タイ米のような長い米)を好んで食べるが「吉野家」はジャポニカ米だった。量は日本の大盛りくらいある。台湾より香港の「吉野家」のほうがおいしい。紅しょうがではなく、すし屋においてある「ガリ」だったのは残念。って、わざわざ食の本場で「吉野家」行くこたあないのに。でも現地の駐在員は喜んで食べるんだろうな。NYの友人は「吉野家」が出来ることを心待ちにしていたしな。


台湾はなにを食べてもおいしい。日本人の味覚とピッタリ一致している。屋台の「小ロウポウ」や「牛肉そば」とか、ちょっとしたものが感動するほどの味だ。しかも安い。屋台街など深夜12時過ぎまで人が途切れることがない。毎日が縁日のような賑わいだった。屋台好きの僕には天国のようなところだ。




香港では、九龍半島の付け根、香港島が望める「サムシャチョイ」の街に宿泊していた。ここは返還前にも来ていて少々の土地勘がある。夜にホテルに着き、朝方散歩に外に出るとなにやら見覚えのあるショーウィンドウが。


一見、ごく普通の新品の一眼レフやコンパクトカメラを扱うカメラ屋に見えるが、一旦ビルの中に足を運び入れると香港の中古カメラ屋がカオスのように集結した、カメラ好きにはパラダイスのようなスポットになっている。寧山道路を「ミラマーホテル」で右折、50メートルの場所にある。




もはや「香港でライカ」の時代ではないのは分かっている。くたびれたハッセルの500CMが30万円近くの値札をぶら下げているし、ライカも銀座で買う1.5倍くらいの価格だ。今では日本で買うライカが世界で一番安く、程度がしっかりしているはずだ。


それでも世界中から集まってきたカメラを眺めているだけで確実に1時間は時間をつぶせる。「記念に何か1台買って帰ろう」と思うだけでも楽しめるのだ。1万7000円のポラロイドSX70を見せてもらう。しかしやはり値段なり、折り畳みが出来ない代物だった。結局はなにも買わずじまいだったが、毎日の日課のように出かけていった。




パリ、ロンドン、NYでも中古カメラ屋を探した。現地のカメラマンに教えてもらうのが一番確実だった。ホテルのフロントなんかでは絶対分からない。それぞれお国柄があって面白い。パリはライカのお店が多かったし、ロンドンはハッセルとか日本の一眼レフの、程度のいい実用品が目についた。NYは、いったい誰がこんなの買うんだ?というほどえたいの知れないものが堂々と売られている。暗室用品など使いっぱなしでろくに洗っていないようなものまであった。


どこも日本とほぼ同じ値段。インターネットが普及してからと言うもの、世界中で相場が一定になってしまった。となるとわざわざ海外でカメラを買うメリットは、旅の記念以外には何もない。海外で掘り出し物を探すのは年々難しくなっているんだろうな。




香港以外、アジアでは唯一タイで大きな中古カメラ屋を見つけた。大型ショッピングモール「マーブン・クロンセンター」の1階にある。道を知らないタクシーの運ちゃん(バンコクでは当たり前)でも「マーブンコーン」と叫べば必ず連れて行ってくれる。


初めて行ったのは円がまだ強く、インターネットが普及する前だった。写真家田中長徳は「ウィンドーを一瞥しただけで金属の反射率の違いから中古カメラ屋を発見できる」と言っているが、その店を「発見」したのはまさにその状態(段々ヤバイ方へ向かっているのかもしれないな)。


整然と並んだ棚は塵ひとつ無く、一目でタイのお金持ちの趣味人を相手にしているのが分かる。その中で一際目に付いたのはライカM5後期3本吊り(わかんない人いいです)とニコンF2チタンネーム無し(知らなくていいです)、どちらもビカビカの新同品。




値段はと言えばなんとM5が16万円(エー!)F2が14万円(オオー!)。思わず眩暈がした。その頃日本ではM5ブームが起こっていて美品であれば35万円はくだらない、F2チタンも最低で30万円はするはず。


お店で安く買って、別の店に高く売る商売のことを「背取り屋」という。古書業界の言葉だったと思うが、カメラでそれをやっている人もいると聞く。一瞬それをやろうか考えた。M5もF2も別に欲しくはない。でも値段だけを見るとグラッとくる。日本で売ったらいくらになる?どちらか一方なら買えない値段ではない。しかもクレジットカードもある。どうする?どーする?




今はその店に行っても掘り出し物は見なくなった。インターネットの普及の悪影響だ。タイも結構なネット社会になっている。もうあの店を覗いても当たり前の値付けのものしか置いていない。心躍らすブツにはとんとお目にかかれない。


で、M5とF2はと言うと、煮えきらずに翌日行ったらきれいに売れてしまっていました。

(2002/05/26)