vol.5: ライカの話し その3

翌日、暗室に入りズマロンのネガを焼いてみた。ネガは見るからにコントラストが低く、シャープネスにも欠けるように見えた。ところが実際プリントしてみると、ほとんどプリント時に手を入れていないにもかかわらず、溢れるようにトーンが出てくる。バットのなかで浮き上がる絵を見てアシスタントと二人、感嘆の声を上げてしまった。後にも先にもプリントでこんなに驚いたのは初めてだ。特に雨に濡れたアスファルトの地面のトーンや満開の桜の折り重なる立体感にまいってしまった。これがライカのレンズかとうなってしまう。今までライカの描写なぞ趣味人のたわごとと思っていたのに…

 それからはプリントするのが楽しくてあちこちを撮り歩いた。エクタルアというコダックの印画紙との相性が抜群にいいことも分かった。この印画紙はベースが象牙色で、表面の縮緬状のサーフェイスがとても美しい。号数が3号しかなくオーバー目のネガはまったくといっていいほど焼けないが、薄めのネガから丁寧に焼き出されたプリントは、トーンが豊富で立体感すらある。残念ながら一昨年発売中止となり今は手元にある在庫を大事につかって入る。突然の発売中止に驚いた写真家も多かったと聞いた。ちょとだけ早く情報を入手できたため六切り、大四切り合わせて50シートを確保することができたが、もう残すところ大四切りのみとなってしまった。フィルムはコダックT−MAX400。現像は堀内カラーの杉並店に頼んでいる。自家現像にしていないのは、常に一定の濃度に仕上げるため。ズマロンとT−MAXとエクタルアこの組み合わせで3年間、撮ってはプリントのくりかえしを続けた。するといつのまにか露出計がいらなくなった。ベタ焼きは1駒目から終わりまできれいにそろうようになった。

 江古田を撮りつづけたものは今年1月に写真展を開くことができ、多くの人にオリジナルプリントをみてもらうことができた。写真集ではタイのムック島の写真がライカで、硬めのトーンが欲しかった西表島はキヤノンをつかっている。ずっとつかい続けたズマロンは一度、関東カメラサービスにオーバーホールを5万円で出し、完璧な状態とした。ボディは一度の故障もない。見てもらったところまだまだ大丈夫ということでオーバーホールには出していない。そういえばローライも一度も壊れていない。だからこそ安心して旅へと連れていける。今となってはライカは大事な機材のひとつとなっている。そういえばDRズミクロンはレンズにくもりが出た時点で光陽商事に5万円で売ってしまった。ボディ1台にレンズ1本がライカのお約束なのだ。